文化・住環境学研究所共同研究
映像教育普及研究

文化学園大学には附属研究所があり、その1つ[文化・住環境学研究所]では、生活環境の向上ならびに造形教育手法の開発をテーマとして、学内外の研究者による共同研究を推進しています。
このサイトでは、その助成による以下の映像教育普及に関する共同研究の報告と関連資料をまとめました。


2021〜2022年度
「アニメーション・ワークショップの
             実施環境と教材の研究」
共同研究者…昼間行雄/荒井知恵
      (文化学園大学メディア・映像研究室)


表紙イラスト:佐竹美紀
                      
             

研究内容

アニメーション・ワークショップの
実施環境と教材の研究

本研究は、小学校や社会教育施設でのアニメーション・ワークショップ実施におけるより良い環境作りや教材を開発することを目指し、主に子どもを対象としたワークショップの実施方法を調査、実践するもので、2019 年度より継続して行いました。本研究についての詳細は、下記のリンク「文化・住環境学研究所報Vol.9 (2022)」に記載しています。

2021、22 年度も前年度に引き続き新型コロナウイルス影響下での取組で、オンラインでのワークショップやネットを介して提供できる教材、コンテンツ制作が主でしたが、感染対策を行いながらの対面ワークショップやイベントの実施が再開され、指導講師や登壇者として参加することができました。

 また、「アニメーテッドラーニングらぼ」(以下「All.jp」)との共同研究も継続して行いました。All.jp (※)が主催するオンラインワークショップでのカリキュラム制作協力と教材制作、講師としての参加の他、フォーラムでの研究発表を実施しました。

(※)Alljp は、デンマークで行われている「アニメーテッドラーニング」を参考に、日本でさまざまな学習や社会活動で「アニメーテッドラーニング」を展開するために設立された組織である。アニメーション制作を学習や対話のツールとして使い、身近な事柄やグローバルな課題を子どもたちが考えて話し合ったことをアニメーションで伝えようとする活動を行う。下記リンク集参照。

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ワークショップ実施・参加一覧


外部のワークショップ講師、研究会等への参加
・2021/8/1 「さわれるシネマ フィルムでアニメーションをつくってみよう2021」
(@川崎市市民ミュージアム/ 川崎市生涯学習プラザ)
・2021/8/21「POST COVID-19 個人映像主義宣言」
(@ 小金井 宮地楽器ホール)
・2021/8/22 「前川千帆展関連ワークショップ 手の中で動き出す!ぱらぱらマンガをつくってみよう」
(@千葉市美術館)
・2021/9/25 「大学美術教育学会(山形大会)」
(@山形大学/ オンライン開催)
・2021/11/1-2022/1/29「いすゞタウンワークショップカフェ」
・2022/3/1-31「NACT+JAA アニメーション・キャラバン おうちで簡単 アニメーションを作ろう!」
(@六本木 国立新美術館)
・2022/3/26-28 「シネマわくわくワークショップ 映画のはじまりに挑戦!リュミエール映画+Vol.10」
(@川崎市アートセンター)
・2022/8/11 「さわれるシネマ フィルムでアニメーションをつくってみよう2022」
(@川崎市市民ミュージアム/ 川崎市生涯学習プラザ)
・2023/3/25-27 「シネマわくわくワークショップ 映画のはじまりに挑戦!リュミエール映画+Vol.11」
(@川崎市アートセンター)
All.jp との共同研究
・2021/7/4「アニメーテッドラーニング指導者向けリモート講習会<ぱらぱらマンガで動詞を学ぶ>」
・2021/10/10、31、11/28、12/5「アニメーテッドラーニング指導者向け講習会2021 文字情報をアニメ化する」
・2021/12/12、19、28 アニメで考える、アニメで伝える、わたしたちのまちと未来 - 高校生と日本語学習者のアニメーテッドラーニング-」
・2022/1/23「アニメーテッドラーニング・フォーラム2021」(Zoom)
・2022/7/31「アニメーテッドラーニング指導者向けリモート講習会<ぱらぱらマンガで漢字を学ぶ>」
・2022/8/30「アニメーテッドラーニング指導者向けアドバンス講習会vol.1」
・2022/12/27、29、2023/1/8、1/15「高校生と日本語学習者のアニメーテッドラーニング - アイディアをアニメで伝える」
・2023/3/5「アニメーテッドラーニング指導者向けアドバンス講習会vol.2」
・2023/3/5「アニメーテッドラーニング・フォーラム2022」(Zoom)
研究活動資料1
上に記載したワークショップや講演等の記録・再録、関連資料等を掲載します。
大学美術教育学会(山形大会)での発表 要旨
映像教育普及活動の30年〜国立総合児童センター「こどもの城」の映像活動

〔こどもの城〕とは
1985年11月から2015年2月まで、約30年に渡り活動していた〔こどもの城〕は、国立の総合児童センターであった。年間に30万人もの親子や児童が来館していた。また、全国に4千館ある児童館のセンター的な役割を担い、いろいろな専門分野に分かれた事業部によって、多くの活動プログラムの開発と実践を行っていた。

〔こどもの城〕の映像活動のはじまり
AV(オーディオ・ビジュアル)事業部(後に「映像・科学」と改称)では、“子どもたちが映像に興味を抱き、豊かな映像体験をする”ために、子どもたちが映像の鑑賞と制作活動を行なう様々なプログラムを開発し、ワークショップを実践していた。〔こどもの城〕が開館した1985年当時、子どもたちを対象とした映像の鑑賞を啓発する活動を体系的に実践している公的な機関はなかった。また、子どもたちが映像作品を作る活動も、学校の放送部やクラブ活動以外の教育現場では行われていなかった。そこでAV事業部では、海外の事例などを参考にしながら少しずつ活動プログラムを作っていくことを始めた。また、映像作家同士の交流から、ワークショップ活動を行っている方々と知り合い、いろいろなアイデアを提供していただいて、活動を行なっていった。初期にこのような試行を重ねたことは、その後に〔こどもの城〕での独自のワークショップを実施する基礎になった。 

アニメーション・ワークショップのプログラム化
映像が動いて見える仕組みを遊びに応用した「マジックロール」や「驚き盤」などの視覚玩具作り、映画フィルムを使った「フィルムペインティング」、短いアニメ作品をつくる「切り紙アニメ」、「紙コップ人形アニメ」などは、短い活動時間で完成できるように進行をアレンジし、長年に渡り継続して実施していたワークショップである。プログラムのテーマは、絵やモノが動くことの面白さを体験し、自分が描いた絵が動く驚きや喜びを子どもたち自身が感じることである。実際の活動では幅広い年齢層の子どもたちが来館するので、幼児から小学校低学年対象、高学年以上対象と同じ活動エリア内で年齢別のプログラムを設けて多くの子どもたちが参加できるようにしていた。 こどもクリエイティブ・クラブの活動 複数の事業部が共同で開発して実施する活動も行なっていた。美術の教育普及と映像活動とを合わせた活動では、造形事業部とAV事業部が共同で取り組んでいた、子どもたちがアニメを作るクラブ活動「アニメ体験」があった。この活動は1986年から2007年まで行なっていた。造形事業部は「こどもクリエイティブ・クラブ」という子どもの造形表現を育てるクラブ活動を実施していた。その一つとして、「アニメ体験」も行なわれ、異年齢の子どもたち同士がお互いに刺激しあいながら活動を繰り広げた。週1回の実施で年間に約36週続く「アニメ体験」は、改題した「えいぞう探検」となって94年まで実施され、その後96年と97年に「絵本の世界へ」と題したクラブの中でアニメ作品作りを実施した。2000年には「映・造ワークショップ」と題し、映像を介して美術の歴史にアプローチする内容になり、2007年まで実施された。

 閉館後の活動
2014年に惜しまれつつも閉館した〔こどもの城〕だが、児童文化の拠点としての存在が無くなってしまったことが何よりも残念である。しかし、30年に渡る活動内容は、閉館した現在も児童館や社会教育施設に移籍したり、個人で教育普及活動を続けている旧職員たちによって受け継がれ、催しやワークショップが各地で行なわれている。 また開発したプログラムを活用できるような資料が〔こどもの城〕のサイトに掲載されており、無料でダウンロードして閲覧する事ができる。
研究活動資料2
上に記載したワークショップや講演等の記録・再録、関連資料等を掲載します。
「さわれるシネマ〜フィルムでアニメーションを作ってみよう〜」
進行表2021年8月1日(日) 1回目=10:00-12:00/2回目=14:00-16:00

10:00-10:05/14:00-14:05
開始の挨拶スタッフ紹介。

10:05-10:10/14:05-14:10
進行説明2時間の活動時間全体の進行を説明。

10:10-10:20/14:10-14:20
ミニ・レクチャー①映画の誕生と映画のフィルム。写真、連続写真、エジソン、リュミエール、35ミリフィルムについて映像資料(pdf)を映しながら、簡単に説明。実物資料として、映画のフィルム、カメラなど。

10:20-10:25/14:20-14:25
制作方法の説明ワークショップ内容の説明。方法、画材、描画の注意点など。

10:25-11:25/14:25-15:25
制作作画用フィルム、下書き用紙を配布。参加者各自で描画。 ※注意点分からないところは、スタッフに聞くように促す。描画に失敗して消す部分が出たら、スタッフに言う。途中で、動きを見たい場合もスタッフに言う。

11:25/15:25
制作終了完成したら、編集するスタッフに渡す。

11:25-11:35/15:25-15:35
ミニ・レクチャー②関連する作品の紹介。ノーマン・マクラレンについて。シネカリ、ダイレクトペイント作品、マクレラレンの紹介などの映像クリップを上映して解説。 ※この間に編集のスタッフは全員の作品をつなげてリールに巻く。

11:35-11:50/15:35-15:50
作品上映1回見たら、巻き直して、2回目上映。巻き直しの間に参加者からの感想などを聞く。

11:50/15:50
終了の挨拶、伝達事項等。終了の挨拶。終了。解散。
研究活動資料3
上に記載したワークショップや講演等の記録・再録、関連資料等を掲載します。
上記の「さわれるシネマ」ワークショップが企画されるに至る経緯
「こどもの城」フィルムライブラリーが所蔵していた16ミリフィルム版カナダのアニメーションのコレクションは「こどもの城」の閉館に伴い、川崎市市民ミュージアムに寄贈され管理されていた。その後、市民ミュージアムのホールでマクラレン作品特集上映を行う企画が2019年に立案された。しかし、この企画は2019年10月の洪水により市民ミュージアムが大きな被害を受けて休館したため企画自体は無くなったが、その後、川崎市内の社会教育施設を使ったイベントやワークショップが企画され、フィルムは2022年の「さわれるシネマ」で上映された。上映作品は以下のとおり。16ミリフィルム版 4 作品(計25 分)『つかの間の組曲』(5 分)/『⾊彩幻想』(8 分)/『三⾓形のダンス』(5 分)/『散歩する球』(7 分)

2019年に昼間は上映企画に備えて、マクラレンについての再考察を行う研究に着手していた。以下は大学の学内研究発表会で行ったその発表の要旨である。

ノーマン・マクラレンの作品―アニメーションの定義と表現についての再考察―
メディア・映像研究室 昼間行雄

1.はじめに
 本発表はカナダのアニメーション作家、ノーマン・マクラレン(Norman McLaren  1914〜1987)の作品についての研究を述べるものである。
 先行研究が多い著名なマクラレンの研究を改めて行なう理由は何か? それは、マクラレンのアニメーションに対する考え方を再検証することが、アニメーションの定義に関する再考察を行なう際に大きな手がかりとなると考えられるからである。
 では、アニメーションの定義を再考察する理由であるが、それは平たく述べるなら、フィルムの時代に確立されたアニメーションの制作方法に変わり、現在は、デジタル環境での制作が主流となり、「アニメーションとは何か」がとても曖昧になってきたからである。
 アニメーションの制作が動かない物や絵を1コマずつ撮影して動画映像を作り出す「コマ撮り」というフィルムの時代に確立された方法だけでなく、画像の位置や大きさや形態の変化をタイムライン上で付けていくアフター・エフェクツなどのソフトを用いた制作方法もあり、むしろそれが主流となりつつある。モーションキャプチャーでライブな動きをコンピュータ・グラフィックス(以下CG)の絵の動きにリアルタイムに置き換える技術も実用化され、スマホのアプリでも可能となるほど一般化してきている。これは単なる人形劇のデジタル版であると考えれば、アニメーションと捉えるかどうかが問われるが、絵が動くので、実写映像ではない。CGでフォトリアルな表現も可能となり、映画フィルムの24コマ(フレーム)/秒よりも細かい60フレーム/秒がデジタル映像では主流になりつつあるので、再生される動きもより細かくなっている。その画面はカメラで撮影したものかCGかの区別がほとんど付かない。フォトリアルなCGで作られた『ライオン・キング』(2019)のような映画は、アニメーションと称して良いのだろうか。そうで無いならば、その映像はどう分類されるべきなのだろうか。
 動画映像を記録する映画が誕生して124年、現在まで映像は、様々な技術の発達にともなって制作方法が変わり、それに伴い表現が変わってきた。アニメーションの制作がデジタル制作に変わったことでの大きな変化は、最小単位の「1コマ」の連続で動きを作り出す方法から、リニアなタイムライン上で移動距離や大きさや形態の変化を付けて動きを作り出す方法となったことで、作り手は、まずタイムラインを意識した構成に目を向けなければならなくなったことである。 しかし、フィルムの時代にも、アニメーション制作に、まずタイムラインありきの考え方で作品を制作していた作家がいた。それがノーマン・マクラレンである。

 2.ノーマン・マクラレンについて
 ノーマン・マクラレンは、1940〜70年代にかけて活躍したイギリス出身のアニメーション作家。様々な技法による短編作品を制作した。1941年にカナダの国立映画制作庁「ナショナル・フィルム・ボード」(以下NFB)に招かれ、そのアニメーション部門の創設に参加。数々の教育映画や広報映画を手掛け、さらに作家性を重視したアーティスティックな短編作品を多数制作した。NFBは、カナダ人のための映画を独自に制作するため、1939年に設立された組織で、マクラレンが率いるアニメーションのスタジオには多くの若手作家が招かれて作品制作が行われ、米国アカデミー賞などの映画賞も多数受賞している。マクラレンは後進の育成にも熱心で、講習用のテキストや映画を多数制作した。

 3.マクラレンのカメラレス作品
 マクラレンは様々な技法を用いているが、映画フィルムに直接作画していく「カメラレス」作品に対する取組みが特徴である。「カメラレス」とはカメラで撮影せずに、帯状の透明な映画フィルムに染色や型押しをして模様を付けたり、油性ペンで線や形を描く「ダイレクト・ペインティング」と、ナイフ状の器具で黒味フィルムの乳剤層を削って線や形を描いたり、針で細い線を描く「シネカリグラフ」の技法を指す。これらの技法はアブストラクト・シネマの作家がよく用いているが、マクラレンの作品は、フィルムの光学音声トラックも同様の技法で制作するといった、音楽と画面とのシンクロが特徴である。さらにフィルムに直接描かれた線を色分けしたり、影を付けたり、コマ単位でオーバーラップをさせて動きをコントロールするなどの現像所でのオプチカル・プリンターを用いた光学合成の効果を多用しているのも特徴である。

 4.マクラレン作品との出会い
 日本では、1955年にマクラレンの作品はアメリカ文化センターで数本が初上映され、1956年には『線と色の即興詩』(1955)が劇場公開されている。
 私が初めてマクラレンの作品を見たのは、1980年、大学1年生の時に視聴覚室で行われていた「アニメーション研究会」の新人歓迎上映会であった。この時に最も衝撃を受けた作品は、『モザイク』(1965)である。当時は、この作品の制作過程は全く推測できなかった。コンピュータが無い時代に現在のCGと同じような、なめらかでグラフィカルな動きをフィルムでどのようにして作り出したのか? 初期テレビゲームにあったテニスやピンポンのボールの動きと酷似した無機質な滑らかさを持って画面内で「点」が移動していくその動画技術が分からなかった。動画用紙への作画であるならばフルアニメーションで相当な枚数を、しかも製図的な正確さを持って描かねばならないだろう。アニメーションについての文献が乏しい当時、この『モザイク』についての方法を知る術は無かった。

 5.マクラレン作品と再会
 1985年、レーザーディスク株式会社がレーザーディスク・ソフト「映像の先駆者シリーズ」を発売。そのマクラレン特集のディスク「ノーマン・マクラレンの世界」(1986)に添付されていたブックレットには、作品の技法が詳細かつ具体的に紹介されていた。このソフトが発売された当時、私は渋谷に建設された国立総合児童センター「こどもの城」のオーディオ・ビジュアル事業部に勤務しはじめた頃で(1985年〜2003年まで常勤)、パイオニア株式会社と共同でレーザーディスクを使ったインタラクティブなソフト制作に従事していた。そのつながりからレーザーディスクの関係者に取材をすることができた。レーザーディスクは、ビデオとは異なる様々な再生操作が可能な点をセールス・ポイントにするため、マクラレン特集はカナダから35ミリフィルムを輸入し、特殊なテレシネをして、フィルムの24コマ/秒からビデオの30フレーム/秒に変換する際に生じるコマのダブりを起こさずにコマ送り再生ができる仕様にしたと伺った。マクラレン特集は、コマ単位で再生して研究できる映像資料として非常に貴重なソフトであった。
 その後この「こどもの城」では、館内上映用のフィルム・ライブラリーが1992年に設立され、マクラレンをはじめとする16ミリフィルムのカナダ作品を購入して、実際にそれらを上映する催しを毎月行っていくことになった。2012年まで私は(当時は非常勤職員ではあったが)、この上映業務に毎月携わっていた。1992年〜2012年まで、映写機の横でマクラレンの主要な作品はおそらく数十回以上は見てきたと思う。そして参考文献としてNFB発行のパンフレット等の入手ができたこの頃に、先に書いた『モザイク』の疑問が解けるに至ったのである。

 6.『モザイク』の制作方法
 さて、『モザイク』の制作方法であるが、NFBの資料から判明した。『モザイク』が作られる前に制作されたカメラレスの『垂直線』(1960)、『水平線』(1962)という作品がある。どちらも単に複数の線だけが動く作品で、35ミリフィルムの走行する方向に対して直線を引いたものが『垂直線』だ。上映時に映写機の整備不良などでフィルム全部に縦位置の傷が付くと、画面ではそれが1本の縦線となって上映されてしまうことがあるが、『垂直線』はその傷と同様な線をフィルムに描いたものである。そして『水平線』は、『垂直線』のフィルムの1コマ分のフレームを90度横位置にして1コマずつオプチカル・プリンターでプリントした作品である。光学処理の着色や音楽が異なるこの2本の作品は、映像自体は全く同じなのである。そして、『垂直線』と『水平線』の画面をモノクロにして線が白くなるように反転プリントし(フィルム上では白は透明になる)、両者を重ね合わせると線の交点が点となる。『モザイク』の点の動きは、単に『垂直線』と『水平線』の線の交点が動いているという作品だったのだ。だから「点」の移動が無機質な滑らかさを持っていたのである。
 この3本を同時に上映してみたことがある。前述の「こどもの城」には、複数台の映写機があったので、スタジオに映写機を3台用意し、それぞれのフィルムを掛け、一斉に上映をしてみるといったイベントをメディア・アーティストの岩井俊雄氏とともに行った(1992年)。映写機をズラして『垂直線』の画面に『水平線』の画面を重ね合わせると、その線の交点は『モザイク』の点の動きと一致したのだった。 

7.マクラレンの作品をフィルムで再検証
 2014年度で閉館となった「こどもの城」のフィルムは川崎市市民ミュージアムに移管され、現在はそこで上映が行われている。今年の8月7日には市民ミュージアムのキュレーターとともにマクラレンの作品をシアターで試写した。フィルムは退色や損傷がほとんどない状態を保っていた。7年ぶりにスクリーンでマクラレンのフィルムを鑑賞したが、新たな発見もあり、スクリーンでの高精細な上映はやはり重要であると再確認できた次第である。この試写での新たな発見と考察について以下に述べる。

 8.コマ撮りにこだわらないマクラレン
 「アニメーションとは、動く絵の芸術ではなく、描かれた動きの芸術である。それぞれのコマの間に起こっていることこそが、それぞれのコマの上に存在するものよりも重要なのだ。それゆえにアニメーションとは、コマの間に横たわる見えない隙間を操作する技術なのである」というマクラレンの言葉がある(モーリン・ファーニス 著「art in motion」)。映画フィルムを使ってアニメーション制作を行なっていた時代には、1コマが最小単位であり、そのコマが24コマつながれば1秒間という時間軸を生み出す。だから普通のアニメーション作家は、全体の時間軸を示すタイムシート中の1カットの、その中の1コマごとの制作にこだわる。しかしマクラレンのタイムシートは全体のタイムラインを想定し、その全体での動きの操作を考えていくことを常に行なっていた。フィルムを1本の長尺なタイムシートとして捉えているので、『色彩幻想』(1949)のようなコマを無視した描画方法や『垂直線』のような線の動きの操作を全体の時間軸で考えることができたのである。また、『線と色の即興詩』では、シネカリグラフで作画したコマの間は黒味が多いが、瞬間的に現れる白い線の絵が残像として見える時間を計算して、この黒味の長さが決められているようで、映写して鑑賞する映画の仕組みが、〔コマの間に横たわる見えない隙間〕を作り出しているのである。 物語の映画演出がある実写の『いたずら椅子』(1957)といった作品では、コマ撮りではない微速度撮影や止め写しの技法が多用されていて、物や人物の動きに現れる緩急が巧みに操作されている。もし『いたずら椅子』がコマ撮りだけで作られていたら、24コマ/秒で分解されたカクカクした動きで、観客はその技術面が気になって、椅子そのものを見つめることが阻害されてしまうだろう。この作品では、当時のフィルムでの24コマ/秒のコマ撮りでは表せない、微妙な移動やブレの表現では、あえてコマ撮りではなく操演や微速度撮影が選択されているのである。

 9.アニメーションの定義の再考察
 日本アニメーション学会は、優れた研究書籍や業績を表彰する学会賞を毎年6月の総会・大会で発表する。2019年度の学会賞は、映像評論家の西村智弘氏の著書『日本のアニメーションはいかにして成立したのか』(森話社、2018年11月)であった。この書籍は、映画が日本に輸入された明治期、戦前〜戦中そして戦後から現代までのアニメーションの上映や配給、興行、評論などを調査し、先行研究には無い視点で、日本でアニメーションがどのように捉えられて、「アニメーション」という言葉がどのように用いられてきたのかを論じている。マクラレンについては、この書籍では日本での上映歴や当時の作家や評論家たちの反応などが詳細に記載されている。「制作する側」と「配給や興行をする側」とで、アニメーションの捉え方が必ずしも一致していない事実を多くの資料から導き出し、歴史の中にまだまだ埋もれているアニメーションの作品があるのではないかということを示唆している点と、さらにアニメーションとそれ以外の映像作品の分類とは何なのかを改めて考察しなければならないことを研究者たちに促している点が出色である。

 10.おわりに
 本研究は、上記の西村氏の書籍に触発されており、ノーマン・マクラレンの作品の再検証に至った次第である。
 次は、マクラレンの作品では謎が多い『カノン』(1964)を検証する予定である。コマ撮りを行わず、水平移動する複数の人物の動きをぴたりと合成している、アナログなモーション・コントロールとも言える本作品も複数のタイムラインの設定から想起されたものであると思われるからである。
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研究者紹介


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昼間 行雄

文化学園大学造形学部教授。
東京造形大学造形学部デザイン学科映像専攻卒業。
フィルム、ビデオ等での映像作品制作を40年間手掛け、映像技術やアニメーションに関する雑誌連載や著書の執筆、テレビ番組やDVDソフトの企画構成・演出なども行なっている。また1985年から2012年度まで「こどもの城」のオーディオ・ビジュアル事業部で映像の教育普及活動を行い、子どもから社会人までを対象にした数々のワークショップや映像講座を実践。

荒井 知恵

文化学園大学造形学部准教授。
アメリカ、北アリゾナ大学美術科卒業。
アニメーションスタジオに勤務後、2002年よりフリーランス。 手描きアニメーター、イラストレーターとして仕事の傍ら、フリップブック、アニメーション映像等の制作を続ける。2006年よりフリップブックを愛する作家たちによるグループ展「ぱらぱらマンガ喫茶展」を企画、都内中心に各地で多数開催する。

文化・住環境学研究所について

研究所の名称である「住環境」とは、住居のみならず人間の生活を成り立たせている環境全般を意味しており、研究所の活動としても異なる領域を横断する学際的な研究を重視しています。現在は「生活環境の向上」ならびに「造形教育手法の開発」をテーマとして、学内外の研究者による共同研究を推進するとともに、若手教員による研究活動の活性化を支援しています。研究成果は、各種の学会での発表のほか、隔年で発行する研究所報『しつらい』にも掲載し、広く社会に公表しています。(文化学園大学附属研究所公式HPより)

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関連サイトリンク集


文化・住環境学研究所報Vol.9 (2022)

文化学園大学の文化・住環境学研究所が2年に1回発行する所報です。

付属研究所について

文化学園大学の付属研究所について、このページで紹介しています。

さわれるシネマ

さわれるシネマ~フィルムでアニメーションをつくってみよう~は、川崎市市民ミュージアム主催のカメラレス(ダイレクトペイント)アニメーションワークショップ。その作品集です。(川崎市市民ミュージアム公式youtube)

リュミエール映画+vol.11

川崎市アートセンターで行っている「シネマわくわくワークショップの「映画のはじまりに挑戦!リュミエール映画+Vol.11」の開催記録です。(川崎市アートセンター公式HP)

アニメーテッドラーニングらぼ

アニメーテッドラーニング(All.jp) は、デンマークで行われている「アニメーテッドラーニング」を参考に、日本でさまざまな学習や社会活動で「アニメーテッドラーニング」を展開するために設立された組織です。(All.jp公式HP)

アニメーテッドラーニング
フォーラム2022

アニメーテッドラーニングらぼ主催のオンライン・フォーラムの記録です(アニメーテッドラーニングらぼ公式HP)

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